東京高等裁判所 昭和57年(う)798号 判決
被告人 村上恵美子
〔抄 録〕
刑訴法三二一条三項は、特に作成の主体を「検察官、検察事務官又は司法警察職員」と限定したうえ、その検証の結果を記載した書面について、所定の要件のもとで証拠能力を肯定しているのであるから、消防司令補が作成した現場見分調書について、その実質が右の書面と異ならないという理由のみで右規定を準用又は類推適用し、その証拠能力を肯定するのは、所論指摘のとおり規定の明文を無視した拡大解釈の嫌いがあり、妥当でない。しかしながら、右規定は、当該規定により検証の結果を記載した書面の証拠能力を肯定する場合の要件を定めているにとどまり、他の規定にかかわらず、検証の結果を記載した書面に証拠能力を認める場合をおよそ検察官等の所定の資格者が作成した場合のみに限定する趣旨までを含むものではないから、等しく検証の結果を記載した書面にあたる消防司令補作成の現場見分調書を刑訴法三二一条三項の準用又は類推適用により証拠とすることが妥当でないとしても、これを同法三二一条及び三二二条に掲げる書面以外の書面として、同法三二三条により証拠能力を肯定することができるか否かを更に検討する必要があるところ、同条三号には「特に信用すべき情況の下に作成された書面」に対しては証拠能力を認める旨の概括的条項が存するので、右調書が同号の書面にあたると認められるときは、もとよりその証拠能力を肯定するのが正当であり、右書面が同号の要件にあたるか否かを判断するにあたっては、同条一号、二号のほか、三二一条及び三二二条において特定の書面について特定の要件の下で証拠能力を認めている法の趣旨、特に右と類似の書面である三二一条三項の書面に証拠能力を付与している法の趣旨を参酌するのが相当である。この見地から、三二一条三項が検察官等の検証の結果を記載した書面に対し証拠能力を認めている趣旨を考察すると、その書面は、書面上の記載の方が検証者の現在の記憶に基づく供述よりも正確なのが常であり、事柄の性質上も現在の記憶に基づいて供述させることが困難な数量的、技術的な記載にわたる場合が多いこと、書面の作成者である検察官、検察事務官又は司法警察職員は、法律上捜査の職権と職務とを有する公務員であり、その検証の結果を信用しうる資質上、制度上の保証を備えていること、検証に際しての認識等の正確性、真摯性についての吟味は、作成者を証人として喚問し、書面の記載に関して尋問することによってなしうることからして、同条項所定の要件のもとで書面自体に証拠能力を付与する方が妥当であり、そうすることとしても伝聞証拠を排斥することとした法の基本原則にも実質上反することはないとの判断に立つものと解される。右の書面と消防司令補の作成した現場見分調書とを対比すると、共に検証の結果を記載した書面であって、性質にほとんど差異がなく、その記載も検証者の現在の記憶に基づく供述よりも正確なのが通例であり、事柄の性質上供述のみでこれを再現することが困難であること、及び共に作成者を証人尋問して検証に際しての認識等の正確性、真摯性について吟味することが可能であることにおいて共通しており、ただ作成者を異にしているにとどまっている。そして、この作成者の相違も、消防司令補その他の消防職員が、消防法上、消防長又は消防署長の補助職員として、火災原因の調査と証拠の収集を行う職権と職務とを有する公務員であり(消防法三一条以下参照)、火災現場において行う検証の結果を信用しうる資質上、制度上の保証を備えていることを考えると、これを重大視するにはあたらないのである。そうしてみると、消防司令補が作成した現場見分調書は、その性質上刑訴法三二一条三項の書面に準ずるものと解するのが相当であり、したがって、その供述者が公判期日において証人として尋問を受け、その真正に作成されたものであることを供述したときは、刑訴法三二三条三号の規定により、これを証拠とすることができるものと解すべきである。
(桑田 香城 植村)